【金融市場レポート】好調な金融市場に潜む重大なリスク(その2)

邦銀の新興国向け与信の慎重化リスク

『新興国を支える資金の流れが止まるリスク』はどの程度あるのか?、それを見る上で最も注目す べきなのは、「邦銀マネーの動向」だといえるでしょう。

2015年以降、「邦銀の対外与信総額は世界最大」となっています。過去数年間、他国の金融機関が対外与信を絞りつつある中でも貸出を拡大しており、リーマン・ショック後の拡大幅は200兆円に上ります。仮にそのマネーが逆流すれば、海外の資金量、特に新興国の資金フローには大きなダメージとなり得ます。

邦銀の海外貸出戦略の変化

では、邦銀の当面の海外貸出戦略はどうなっているのでしょうか。主要な邦銀にとって、海外貸出は国内の低収益を補う最大のよりどころです。しかし、今後もそれらのマネーが新興国にも向かうかは微妙になっています。

その背景として、まず融資のターゲットが新興国以外に移っていることが挙げられます。最近邦銀では、かつての通貨ショックのトラウマが残る新興国よりも、米国などの高リスク企業への比較的高金利での与信や、M&A(合併・買収)ファイナンスなどに注力しています。これらの格付けは「BB」以下(投資不適格)ですが、政治情勢などが流動的で、先行きが読みにくい不確実性がある新興国に比べれば、まだ計算しやすいリスクといえます。

次に、集中リスクへの配慮があげられます。国際決済銀行では、ソブリン向け与信を銀行の大口与信規制に含めるかどうかを検討してきました。もし含まれることになれば、1社・1国に対する銀行の与信額は、最大でも各々の自己資本(Tier1)の25%までに抑制しなければならなかったのです。

結局、昨年12月に引き続きソブリン向け与信は大口管理の対象には含めないことで決着しましたが、こうした議論が提起されたことで、ソブリンも大口与信管理の対象として意識されつつあります。

さらに、昨年12月に金融庁が提示した『検査・監督基本方針』によれば、今後、当局が「一律のシナリオを設定して行うストレステスト」を検討するということです。このような当局主導のストレステストは、欧米では一般的ですが、日本ではまだ実施されていません。

他国の先行事例を見ると、新興国リスクの顕在化は地価・株価暴落というシナリオテストと並んで、最も重要な前提条件の1つに設定されています。もしこのようなストレステストが実行されるようになれば、邦銀は一斉に新興国への与信に慎重になる可能性があります。

新興国の資金流出のリスク

リーマン・ショック以降のこの10年、各国当局は、景気回復のための低金利政策を続けてきましたが、その結果、新興国への急速な資金流入を招いてしまったといえるでしょう。そう遠くない将来、これまでの巨額の借り入れが逃げ始めた場合の影響度は、過去に例をみないほど甚大な水準になる可能性があります。また、その引き金を邦銀マネーが引く可能性も排除できません。

仮に、これまで新興国に集まり過ぎた資金が流出して、新興国の国内金利が急激に上昇した場合、当該国の金融政策のかじ取りは極めて難しくなるでしょう。自国通貨防衛のために政策金利を引き下げることもできず、国内景気が悪化する可能性が高いと思われるからです。

このように、我が国の銀行を中心とする先進国金融機関の今後の与信戦略次第では、新興国の数々の「(与信)バブルの塔」を「廃墟」としかねないリスクは着実に高まっています。

中長期的に年金資産の運用を行う我々機関投資家にとって、こうしたリスクに対する精緻なモニタリングと適時適切な対応策の策定は、今後の重要なポイントとなるでしょう。

 

次回の金融市場レポートは、12月中旬頃に掲載を予定しています。


【金融市場レポート】のコーナーでは、政治的なイベントや経済発表などを題材として、現状の分析や今後のマーケット予想などをお届けします。初回となる今回は、米国中間選挙後金融市場の展望を、今週と来週の2回に分けてご説明します。金融のエキスパートによる視座、視点が皆様のお役に立てば幸いです。

by Hoshino